ご挨拶

tsukahara『木のいのち木のこころ』という宮大工・西岡常一さんによって書かれた本に私が出会ったのは、90年代初頭、建築学科の学生の頃でした。

当時、バブル時代の日本では、東京都庁、東京国際フォーラム、横浜ランドマークタワー等、官民共に最新技術を駆使した大型建築が次から次へとタケノコのように現れ、建築学生のほとんどは、槙文彦さん、安藤忠雄さん、伊東豊雄さんのようなスター建築家に憧れを抱いていた時代でもありました。

そんな折りに出会ったこの本には、実際に材料に触れて、実際に建築を建てている職人しか知り得ない貴重な話が詰まっていて、とても感銘を受けた事を覚えています。特に印象的だったお話は、木を伐って建物に替えるのだから、出来るだけ命を永くしないと意味がない。千年の木だったら少なくとも千年生きるようにしないと、木に申し訳がたちません、と。

日本の人口は終戦時の1945年に約7200万人、それが2004年のピーク時には約1億3000万人と、たった60年間で、ほぼ倍の急激な人口増加に出会いました。その住宅供給のスピードに答えるために、生産効率を余儀なく優先させた結果、今日の「建築物を作る早さ」「効率の良さ」には目を見張る物があります。

しかしながら、時代の代償として、その陰に埋もれてしまった、かつての高い大工の技術力は優先順位を落とされたまま今日に至っています。

戦後70年、住宅ストックがある程度満たされ、循環型の消費社会に移行しつつある現代日本における今こそ、建築を建てるための優先順位を見直すいい機会が訪れているのではないでしょうか?

西岡常一さんは、300年後に設計図通りの姿になるように、300年後の姿を思い浮かべ、癖木を上手に使って建築されたそうです。

日本には、過去の名匠が建てた古民家という財産が、まだまだあります。そんな貴重な過去の財産を活かし、また、高い技術力を備えた名匠が活躍出来る、そんな時代がついにやってきたと私は思います。

千葉県新民家推進協会 会長 塚原 信行